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白うさぎ

てん てん てん
白うさぎがあしあとつけるシーツの上
うさぎってばあんまりおとなしいから
優しい秘密はすぐ消えた
	

2007 10 6 大学4年の秋  稚菜

少女期

繭みたいな白詰草を手折るのがもったいないと言って
その子は代わりにはこべを摘み
花かんむりにした

デニムのベストを着こんだ
それは11の純然たる少女
思春期の森に近付くのを無邪気に楽しんでいる


背を丸める蚕
ため息の糸
上質の絹

を希少な宝物として
中庭で思い思いに転がるのを保護し
踏みつけないよう眺めては
もうすぐその美しさが
自分のものになるのだと
夢見ていたのだ
だがその白い宝石を惜しむあまり
大釜で煮ることができない
適切な処置を先延ばしにして
庭の中に遊んでいる


白詰草を背に秘め隠し
はこべを髪に飾った少女
たぶん 仲間と同じように
機を逃さずに華々しく着飾れば
背後から手招く無数の糸に絡め取られることは
なかったのだろうに
中庭に閉じ込められることは
なかったのだろうに

醜い蛾となった白詰草は
少女を置き去りにして中庭から消えた

はこべの花かんむりは
伸び放題の毛に混じりしおれきった 
	

2008 2 3 大学4年の冬  稚菜

目から血が

涙は瞳の生理
定期的に訪れれば ね
けろり
そのときは痛くて気持ち悪くてしんどくっても
喉元すぎれば忘れちゃうの

映画にバラード
ベストセラー
それともセピアの思い出を引っ張りだしてみようか
さて今週はどのメニューにする?


そう、
お前の涙など生理現象に過ぎないのだ。
それをお前は自覚しているのか。
涙は宝石ではない。
むしろ尿と同じ成分なのだ。
それをお前は知っていて
舌で舐めとろうとしているのか。
純白のハンケチで押さえているのか。
至高の宝と礼賛しているのか。
	

2008 3 30 大学4年の春  稚菜

悲しみの杭

天井から
悲しみの杭の降下するのを
シャツをたくし上げたお腹で
うけとめる

そうして
悪阻をもよおし
月を満たし
いきんで
ぽこりと産んだのが
この歌です
	

2007 12 6 大学4年の冬  稚菜

月と寒天

月が空から転がり落ちて口の中に入ってきそうだ。
空にたった一粒だけの飴玉。
一日また一日とけていく。

すぱっと割れた寒天だ。
冷蔵庫できんきんに冷やした寒天だ。
割れ筋に沿って縦に光の走る寒天だ。

オリオン カシオペア あとはよくわからない。
口開けて見とれてたら
月は転がり落ちずに自分が転んだ。
	

2007 11 22 大学4年の秋  稚菜

海に近い町

千葉の町は発泡スチロールでできている。
  海風に ふわん と浮かびそう。

指でほじくったりもできるんだ。
  そこにセイロン・ウバを注ぐんだ。
 丸いつぶつぶに 染みこむ 染みこむ
   それは血管 それは葉脈
     それがコミュニケーションというやつなんだ。

壁の内はあたたかいよ。
	

2007 10 25 大学4年の秋  稚菜

あんなにさらさら透明だった川が
今は
魚を失い
粘度を増して
悪臭をはなって
もう流れない
	

2007 大学4年の秋  稚菜

ミニバラ

一輪だけ咲きのこった
きいろいミニバラ
が
一生懸命におしゃべりをしている
お友達の
茶色い顔にむかって
	

2007 大学4年の夏  稚菜

透明なインク

わたしのくちびるから・指先から
透明なインクが雫になって落ちようとしている
くちなしの葉のうえに

まだだれにも教えていない
まだだれにも見せていない
	

2007 大学4年の夏  稚菜

ここではないどこか

おかえりなさい と言われても
おなかすいた? ときかれても
おいしいね   と相槌を求められても
洗い物お願い  と頼まれても
ありがとう   とねぎらってもらっても

私の見ている先は
いつもここではないどこか
	

2007 大学4年の夏  稚菜

哀悼

雨の速度を落として
プラタナスの葉が着地する
羽を広げ
かた足の
つま先ずつ
すると
浅い土の中に引きこもっていた虫たちが
しんと黙りこんで
あるかなきかの目に一斉に涙を浮かべます

その哀悼はすべて
あなたのためなのですよ
	

2007 大学4年の夏  稚菜

肉厚の花びらが折れ曲がっている
茶色くなった折れ筋に沿って
水が滲んでいる
葉はすこし多すぎるようで
しかも虫に喰われている

甘く栄養があって美味しいのでしょう
目一杯光を浴びたのでしょう
涙を流しているのでしょう
たくさんの指に撫でられたのでしょう
	

2007 大学4年の春  稚菜

履歴書

私が手首を切るのに使ったカッターで
あなたは履歴書の誤字を正した

削りとられた紙のカス・インクのカス
をあなたは未練もなく手ではらう

そうか カッターには
砂消しの用途もあったのかと
驚くわたし

ならば私は黒子を削ろう
この肌の汚点を削ろう
	

2007 大学4年の春  稚菜

境界線

軸足に体重をかけ
もうかたっぽの足で円を描く
私がやっていることは
つまりそういうことで
自分とまわりに
ぐるり線をひき
境界をつくることなんだ
ぬくぬくのお布団
トイレの個室
本を読むこと
音楽をきくこと

私は 水槽の中の魚
水を通して 世界を見ている
	

2007 大学3年の冬  稚菜

幸せを疑う

幸せを疑う。

私はほんとにこんな事がしたいの?
ほんとは何がしたいの?

今食べてるものは本当に美味しい?
今見ているものは本当にきれい?
今やっていることは本当に楽しい?

人から言われたり 本で読んだり
    写真で見たり
何となく 判断していない?

 きちんと考えなさい、私。
       自分の頭で。

毎日、良い服を着よう。
 根っこの見える格好をしよう。
美味しいものを、楽しく食べよう。
 寝る前には次の日の仕度をしておこう。

でないと、明日に続かない。私はまた、
同じことを繰り返してしまう。
	

2007 大学3年の冬  稚菜

データ

はだかの言葉が
ベッドに横たわっている。
カバーは
かかっていない。
	

2007 大学3年の冬  稚菜

はこべの花かんむり

子どものころ はこべの花かんむりを作りました
はこべの花を知っていますか
ななくさ粥のときに食べる ―― あの。

手折るそばからなよなよとしおれていくあの雑草は
花もすぐに落ちてしまう
白い花弁が
一枚 また一枚
やっと編み終える頃には
花かんむりと呼ぶのもはばかられるほど
葉っぱばかりになっていました。

―― あの
あのたよりない手触りは
あのくたりとした重みは
いまだにこの髪に絡んでいるけど
いま はこべを摘んで編んでみても
あの花かんむりにはならないのです。



はこべやはこべ
こころにはこべ

はこべやはこべ
こころをはこべ
	

大学時代のいつか  稚菜

北斗七星

ぽたり ぽたり
		こぼれる言葉
  北斗七星からわたしの枕へ
   したたりおちる

 にじむ ひろがる しみる しみこむ
   わたしの枕へ
        わたしの心へ

声にも形にもなれなかった
   星くずのきらめき
  なんてかわいそうなのかしら

あのときの わたしの 言葉は
     (あなたの)
 今もシーツの上で
  ちらちらと光って
   自己主張しています。
	

2005 大学3年の夏  稚菜

vous

 vousといえば 二人称複数

 でも「あなた」と敬意をこめて呼びかけるときにも
  vousというのですって。

tu vous tu vous tu vous tu vous ・・・

 tuだけでは「あなた」に不足なのね。
  わかる気がする。

tu vous tu vous tu vous tu vous ・・・
	

2006 大学3年の夏  稚菜

どうしたら

インクが尽きて
  涙も尽きて

 紙が無くなり
  思い出も消え失せ

言葉が 私を 離れていってしまったとき

 この病身を
  この不在を
   この口を

	何で満たせば良いのでしょうか。

 このペンが折れ
  この指が燃え尽き
   この心が音をあげてしまったら

	私は果たしてあの人の傍にいられますか。

血を流し 声を枯らし 足を棒にしたら
	女は女になれるのかしら。
	

2006 大学3年の夏  稚菜

和室のピアノ

畳の目地の奥の奥で
ダニたちがはるか頭上を見上げた
音が浸入してきたんだ

	指先で踊る音は
	真下めがけて落ちてゆく
	ダニたちはやわらかく受けとめる
	短かな手足を上へのばして
	

2006 大学3年の夏  稚菜

夜の詩

物言わぬ言葉の海に
私を沈めるのは あの人
からだと同じほどぬるまった水の中では
小波さえきこえない

水分子のひとつひとつが言葉
この海は言葉の墓場
あるいは卵巣
私の吐く息 ひとつひとつが
泡になってのぼってゆく
めざめる
よみがえる
あの人の耳もとで

ゆらゆらめく薄明かりのもと
言葉はまるで亡霊のよう
私はあの人の手を握ったまま
ただ潮流に身をまかすだけ
そして詩を紡ぎつづける
	

2006 大学2年の冬  稚菜

手紙

いつか開けた切り口から取り出し
折り目に逆らわないようそっとひらく

すこし堅い文字 筆調
声にはなれなかった 言葉

未熟な文面は引き出しの奥で
花咲く日を待ち続ける

千の夜を 香りを放つ
その晩を
	

2005 大学2年の秋  稚菜

くちなし

まったりと白く
厚ぼったく
陰影のやさしい
八重咲きの
くちなしの花に
微小な虫がたかっていた

そうして花は変色していく
	

2005 大学2年の夏  稚菜

無地のノート

指先からしぼり出す
黄金の雫
窓を透いた陽の光に
輝く紙面よりさらに輝け
	

2005 大学2年の春  稚菜

タピオカ

フォークの腹から
タピオカはこぼれてしまった

	私は何を考えていた?
	何を描いていた?
	何を作ろうとしていたっけ?
	それは何色?
	それはどんな角度だったろうか?

ココナッツミルクと睡眠不足の頭に
タピオカは沈みきってしまった
器を支える手に
手ごたえは感じられるのだが
	

2005 大学2年の春  稚菜

新宿御苑

髪の流れに こいがひかる
水面の視線に 花が咲う

ぽた  ぽた  ぽた

もくれんの白がまた落ちる
その音よりは明るい声
が
花粉まじりの風に拡散した

隙間を通して伝わる熱が
もうすぐ桜をも咲わすことでしょう
待ちきれず
わたしは何度でもここへ飛んでくるわ
	

2005 大学2年の春  稚菜

高速道路

空の向こうの水中都市
泡が呑気に上下する

	朝の学校も
	午後の住宅街も
	夜のバイパスも
	昔のままに

	(笹の葉さらさら)

あれがピンク色に見えたときもあった
町を茜の水が満たしている

	知らないふりだった
	同級生の笑い声
	大人の事情
	流されるままに

	(ぼくら青い実 ぼくら赤い火)

いつかのはこべの花かんむりは
今も中空でくるくるまわっている
	

2005 大学2年の春  稚菜

沈丁花

四月
この光の重たさ

腐った沈丁花の肉の下の新芽が
どうか力強く育ちますよう

お天道の腕の力に負けぬよう

昼夜の速度に振り落とされぬよう

2005 大学2年の春  稚菜

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