隣人

それは頭に棲みついて
哀しい一人暮らしを始める

夜に歩き出せば
それはちらりと顔を見せる

昼間見かけると
それは煙草の煙にまぎれる

おすそわけをすれば
それは私を無視する

あいさつをしないと
それは黙って私に圧力をかける

それは頭に棲みついて
厄介な一人暮らしを始める

2002 高校2年の秋  稚菜

壊れた人形

首を回して ぐるぐる歌う
手なし 足なし
首なし人形
あぁ ごめんね
こんなにして
でも良かったね 滑稽だよ
小さな道化師さん

首が落ちても ぐるぐる歌う
手なし 足なし
首なしオルゴール
もう 音痴になってしまったそれは
きっと近頃の僕の
遠まわしなデフォルメ

骨を回して メローに歌う
血なし 脳なし
首なしピエロ
そう うつろな眼で
夢ばかり 追いかけてたそれは
今さら目覚めることもできない
馬鹿な道化師さん

2002 高校2年の秋  稚菜

ケヤキ

色づく葉っぱは夕日の子ども
明日 消える 炎の色
明後日 落ちる 黄金の色
しずむ前のまたたく輝き
夕日を真似て 片手にして
最後の絵を描く子どもたち
今日に散ってく 夕日の子

2002 高校2年の秋  稚菜

サボテン

何気に撫でれば
細かなトゲが
白いワタが
いつまでも
手にのこる

「触らないで
僕はサボテン
水も何も
いらないから」

何気に見れば
くすんだ緑が
どぎつい花が
いつのまにか
枯れている

「少しは触って
僕はサボテン
水も何も食べなかったら
死んでしまうんだ」

2002 高校2年の夏  稚菜

だるまさんが転んだ

だるまを倒したら
世界がとまるのに
だるまが見つからない
そして
手が動かない
頭がとまらない
そろそろとまらなきゃ
いけないと思うのに

2002 高校2年の春  稚菜

ミルクティー

染み出す香り
渦まく色
ハチミツを溶かしこんで
ミルクを流しこんで
滅茶苦茶にかきまぜたら
ミルクティーのできあがり
あたしのできあがり

2002 高校2年の春  稚菜

取り戻せないほど遅刻した後に

待ちぼうけ 待ちぼうけ
バスが行くまで
待ちぼうけ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
月が出るまで
待ちぼうけ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
君を忘れるまで
待ちぼうけ

待ちぼうけ 待ちぼうけ
僕を忘れるまで
待ちぼうけ

2002 高校2年の春  稚菜

昼電車

居眠りしてたら
いつのまにか過ぎてしまった
あの駅が
あの日が
どんどん遠くなってく
ああ
早くおりなきゃ
おりなきゃ
おりなきゃ
飛びおりなくちゃ

2002 高校2年の春  稚菜

重ね着

今日も名前を呼ぶ

起きたら名前を呼ぶ
逃げられないように
良い夢を見たら名前を呼ぶ
本当になるように
空と風に名前を呼ぶ
なんとなく 届くように
暗くなったら名前を呼ぶ
見失わないように

明日も名前を呼ぶ

2002 高校2年の春  稚菜

階段

階段に腰掛けて
口を開けて考えてた
思えば
無駄なことばかりだけど
この首を切るか切るまいか
それが問題
それが今のあたし
笑いながら話をしてたら
後ろから声がした
振り向いて見上げたら
笑えなかった
それが問題
それが今の夢

2002 高校2年の春  稚菜

線路

灰色も茶色も緑も
溶けて流れてく川
それは記憶への路
そう、それは車窓

この水に指を浸したら
もうなんにも構わなくなる
流れに身をまかせたら
空が
街が
木々が
あたしを光まで連れていってくれる
たとえそれが錯覚でも
あたしは酔ったって構わない

空も街も木々も
ごちゃ混ぜにして流してく川
それは過去行きの夢
そう、それは
車窓

2002 高校2年の春  稚菜

火事

煙が 熱が
胸いっぱい。
苦しい 痛い
目が赤いわ。
はぁ・・・
あたし ここで終わりなの?

炎が すすが
いかれて踊る。
炎が オレンジが
走り回るのよ。
ふふ
それはそれで きれいなものね。

ああ
こんなものなのね。

あたし そうなのね。

2002 高2の夏  稚菜

ねむの木

夜は見ない
見たくない
光だけを浴びていたい
だからあたしは 眠る 眠る
闇がおりないうちに寝る
でもあたしの薄紅は
夜に輝く星だから
本当はすこし起きていたい
それは確かにあたしの一部なのに
本当に星なのかも知らないの

2002 高校2年の春  稚菜

固執

必死に必死に
しがみつく
何かのつるにしがみつく
咲かない花を夢に見て
なりふりかまわず
しがみつく
枯れたつるにしがみつく
そう それは意地
ただの執念

2002 高校2年の春  稚菜

ひとり部屋

寒いから
戸を閉めた
物足りないから
紅茶を飲んだ
熱いから
飲めなかった
でもやっぱり
寒かった

2002 高校1年の冬  稚菜

おしろい花

明るい太陽が行ってしまって
ひとりになった頃
ぼやぼや白いものを思い出す
花が開く
僕の中にはきっと
白い白いものしか無いんだ
だから僕を切らないで
全部こぼれていってしまう
白が何なのかわからなくても
これが僕のすべてなんだよ

2002 高校1年の冬  稚菜

朝の鳩

黄金の空気は誘い出す
ゆっくりと
ゆらりゆらりと
ふわりふわりと

色とりどりの
セピアの景を

動かない
にぎやかな音楽を

光と影を

乾いた思いを

2002 高校1年の冬  稚菜

寝坊 若しくは 金縛り

昇らないで、太陽
隠さないで、風
僕はまだ支度ができていない
だから少し
まっていてよ
照らさないで、光
教えないで、時間
僕はまだ神さまを知らない
だからもう少し
止まっていてよ

2002 高校1年の冬  稚菜

甘く 甘く 甘んじる


変わらない問題児なら安心
ずっとブルーなら安心
一生宙ぶらりんなら安心
ジャムは保存するために作るんだもの
わざわざ生イチゴをつぶして
だから安心
変わらないなら安心

2002 高校1年の冬  稚菜

そんなものあるのかしら

光うごめく水面から
過ぎた夢を汲みとるなんて
波間波間の泡みたいに
よくある無価値な趣味でしょう?
夜の海は紺青に
安価な光をまぶしただけ
だから だから
浅い輝きに誘われて
過ぎた夢を掻きとるなんて
編まれてほどける泡みたいに
際限無いものに首を突っ込むことでしょう?
永遠に繰り返すだけの波なら
何の意味も無いのだから
だから だから
切り札を出してしまいたいのだけれども

2002 高校1年の冬  稚菜

ソロモンの指輪

地球も針も廻る廻る

広くて自由な白地図を
抱えているから
暮らしていける

重くて大きな白地図を
ひきずってるから
走れない

雲も僕も廻る廻る

2002 高校1年の冬  稚菜

入水

ほら、潮が満ちてゆく
身体が水に包まれる
しょっぱい思いで息もできない
空気を求めてもがきあがく

何も言えない
何もできない
ただおもかげにすがるだけ
何も見えない
何も聞こえない
ただ
ただ自分に逃げるだけ

2002 高校1年の冬  稚菜

L

泳げない
泳げない
だって水がぬるすぎる
だって心地が良すぎる
上がれない
上がれない
だって波が優しすぎる
だって魚が懐かしすぎる
わからない
わからない
だって海はひろすぎる
だって思い出は大きすぎる

2002 高1の冬  稚菜

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